イージーラブじゃ愛せない



新店舗のオープニングスタッフとして無茶苦茶忙しい日々の合間をぬって、俺は自分の家族と胡桃の家族に結婚の旨を伝えに行った。正直キツかったけど、胡桃のこと寂しがらせておくの嫌だったし。男の頑張りどころってヤツね。


かなり驚かれたけど、うちの方はまあオッケー。ちゃんと事情を説明したら親父もおふくろも分かってくれたよ。

親父には『生半可な気持ちじゃないんだな』って険しい顔で聞かれたけど、俺は竦むことなく目を見据えて頷いた。そうしたら親父は何かを考えるようにしばらく目を閉じてから、胡桃に向かって

『馬鹿だけど心根だけは素直で優しい自慢の息子です。どうか支えてやって下さい』

そう言って、深々と頭を下げた。

いやーあれはウルッときたね。俺、本当に親父の息子で良かった。胡桃も真剣な顔で

『ありがとうございます。至らない所もあるかと思いますが丈二さんを支えふたりで頑張っていきます』

なんて頭下げてさ。いやいや、胡桃の口からそんな台詞が聞けるなんて、って密かに感動しちゃったよ。まあ、それを後で言ったらフツーにチョップされたけど。



んで、それから胡桃の家にも挨拶に行ったワケだけどさ。


胡桃が『家族が苦手』って言ってたの、ちょっと分かった気がした。


正直、急な話だし俺は胡桃の親父さんにぶん殴られるのも覚悟して行ったんだけど。

すんげーあっさり承諾されたうえ、帰り際に義母さんが胡桃に掛けていた言葉は

『ふたりでしっかりやりなさいね。圭太さんに迷惑の掛かるような事がないようにね』

だった。


なんで?なんで娘の結婚話で兄貴の方心配してんの?って思ったけど、胡桃の複雑そうな表情見て、あーきっとこれが柴木家の日常なんだって気付く。


帰り道で心なしか沈んでいた肩を抱き寄せながら

『胡桃は俺が幸せにするよ。ちゃんと毎日おかえりって迎えてあげる。胡桃が笑顔で帰ってこられる場所は俺が作るから』

って言ったら、胡桃は黙ったまま俺の胸に顔を寄せてきた。


無言で震える肩を抱きしめながら、俺は改めてこの子の心を全部受けとめる決心をしたんだ。
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