黄昏の特等席
 人のことなんて構わず、よく抱きしめたりしてくるので、スキンシップを好む人という印象。

「いちいち抱きしめなくていいから」

 グレイスの後ろから手が伸び、エメラルドはまだ間違った場所に置いてある恋愛心理学の本を手に取り、読み始めた。

「そういう本も読むのね・・・・・・」
「意外か?」
「ええ・・・・・・」

 彼だったら、こんな本に頼らなくても、多数の女を虜にできるだろう。
 それをそのまま彼に伝えると、彼は緩く首を横に振った。

「いや、そうじゃない」
「だったら、何?」
「私は一人の女が気に入っているんだ」

 だから、グレイスともっと親密な関係になりたい。
 エメラルドの熱い視線を受けたグレイスは本を落としても、拾おうとしない。

「その台詞、誰もが通用すると思っているのなら、それは間違いだからね」
「やれやれ・・・・・・」

 精一杯睨みつけて言うと、目の前でエメラルドに溜息を吐かれた。

「君くらいの年齢になると、恋愛に憧れるはずだがな・・・・・・」
「恋愛なんて・・・・・・」

 グレイスは恋愛に対して、強い恐怖心を抱いている。
 小さい頃は恋愛に憧れ、素敵な人と出会って、幸せになりたい。そう思っていたのに、あのときの気持ちはもうどこにもない。

「アクア・・・・・・」
「・・・・・・何?」
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