きみと世界が終わるまで


難しい顔をして考えているゆりあの真似をして僕も難しい顔をしてみるけれど、これといった考えはこれっぽっちも浮かんできやしない。


もういっそのこと、住宅街の一角ですればいいのではないかと僕が諦めかけたとき、ゆりあがなにかを思い出したかのように僕の顔を勢いよく見上げた。


「優太、あったよ」

「え?」

「シャボン玉が人目を気にせずできる場所」


自慢気に笑うゆりあの黒髪が日にあたって少し茶色く見えて、いつものゆりあよりも大人びて見える。


僕はゆりあから出てくる言葉を待っていた。


「私の家より向こうになるけど、坂道を下っていくとね、人が全然いないひろっぱがあるの。私が中学生のときに見つけた、とっておきの場所。たくさんの木に囲まれてるんだよ」


ゆりあは表情を変えずに僕の手をそっと握ると、僕の腕を引っ張って走り出すから僕はよろけて転げそうになる。


本当に、いつだってゆりあは唐突だ。


僕はきみに何度こうして振り回されたのだろうと考えてみたけれど、僕の頭ではキャパオーバーなほど思い浮かんできたからついには考えることをやめた。


けれどそんなゆりあのこと、嫌いではなく、むしろ好きなんだ。


そう思ってしまう僕は、きっと相当きみにやられている。


「あ、あったあった」


声を今日一番に張り上げたゆりあが指差したその先には、商店街に唯一ある自転車のレンタル屋さん。


朱色と白色をマーブル模様に描いたような屋根に、木でできた壁。


それらは薄汚れていて、このレンタル屋さんも思えば随分と前からあったなあとぼんやりと思った。


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