不良リーダーの懸命なる愛

感謝

「そういえば鳴瀬は、どうしてココに居るんだ?…なんか用事?」


霧島くんの笑いがおさまると、そう尋ねられた。



あ!そうだった!



「えっと、帰ろうとしたら雨が降ってきそうだったので、置き傘を取りに……。」


「そうか。……もしかして急ぎの用とかあるのか?」


「え!?な、なぜそれを…!」


「いや、なんとなく。………そうか。そういうことなら、こんなところで時間を費やせねー…!」



き、霧島くん?!



目がギラッと光ったような?!



「鳴瀬は電車か?それともチャリ?」


「あの、徒歩です。」


「歩きか。なら早く帰った方がいいな。かなり雨が強くなってきてるし、ヘタしたら嵐になって帰れなくなるぞ!」


「ハ、ハイ!!」


私は急いで自分のロッカーを漁る!



けど……。



「……あれ?無い!?」


置き傘は無かった!!


「どした?…………まさか、傘盗まれたのか?!!」


霧島くんが眉をひそめる!


「っ!!い、いいえ!あの、私の勘違いだったみたいです!」


そうか…。と霧島くんは納得してくれたので、ホッと息をつく。



そのあとすぐに霧島くんとダッシュして昇降口に向かうと……!!


外は風がビュービュー吹いていて、雨も滝のように降っていた!!



うわっ!!


あの短時間でこんな天候になるなんて!


「すげーことになってんな…。」


横にいる霧島くんを見ると、何やら考え込んでいる…。



……あ、そっか。



霧島くんもどうやって帰ろうか考えてるのか!



そうだよね、私も自分で考えないと!



しっかりしなきゃっ!!



でも……。



傘も無いし、この雨の中をひたすら歩いて帰るしかない…よね……?



じゃないとバイトに遅れちゃうし!



するとその時!!





「ヨシミーーーーー!!!」




え?!!




霧島くんが突如、叫んだっ!!




ヨシミ?!



ヨシミって誰!!?




霧島くんの視線の先には、7組の担任の先生がいたっ!



ヨシミって……あの先生のこと?



「ヨシミーーー!!今日車だろーーー!?」


先生も霧島くんに気づいてるみたいで、


「霧島くーーん!!“先生”と呼びなさぁーーーーい!!」


と返ってきた!


「鳴瀬、ちょっとここで待っててな?」


ニコッと霧島くんが私に笑いかけて、
雨の中、先生めがけて走っていく…。






しばらくすると、霧島くんが戻ってきた!!


「鳴瀬、ヨシミが家まで車で送ってくれるってよ!ラッキーだな。」


「え!!?そ、そんなことしてもらっていいんでしょうか!!?それなら私、歩いて帰りま」


「それはダメ。俺が鳴瀬を危険な目にあわせたくない。」



え!?



な、なにそれ!?




「鳴瀬の頼みでも…それだけは譲れねーから……。」




ドキッ!





急に霧島くんが真剣な目で見つめてくる!!



その艶めいた表情を見たとき、



心臓が一拍はねた!




こ、こ、これは、




前にちーちゃんが言ってた、



男の“色気”というものなのでは……!!??



そう意識したとたん、パッと霧島くんから目をそらし、


「ハイ…。」


と答えるのが精一杯だった…。


「ん。」


霧島くんは満足気に頷いた様子。


「…あ。それと、鳴瀬には悪ぃけど、ちょっとばかし演技してもらうぜ…?」


「へ?……演技??」


「お!正門に停まってんの、ヨシミのっぽいな。」


すると霧島くんは、自分のブレザーをまた私の頭に被せて、


「あそこまで速足でいくぞ!」


と、二人で車まで急いだ!



右肩には霧島くんの手がまわっていて、彼に抱き寄せられる形になっていた!


それはまるで私が霧島くんに支えられてるようで……!!



はは恥ずかしいよ!



こんなのっ!!



羞恥心に苛まれながら私はどしゃ降りの雨の中、懸命に車へ向かう!



やがて霧島くんが後部座席のドアを開けて、私をそのまま先生の車に乗せる!



「じゃ、ヨシミよろしくな!」



え!?



霧島くんは!?



乗らないの!?




「先生と呼びなさいって言ってるでしょ?もう!」



運転席にいる先生が霧島くんに文句を言う。


「はいよ、ヨシミ先生。助かりました。……鳴瀬、お大事にな?」


バタン!


「え?ちょ、ちょっと、霧島くん!?」


ドアを閉められ、それ以上霧島くんに私の声は届かなかった。


戸惑っていると車が発進してしまった。


雨のなか霧島くんはこっちを見て見送っていたけれど、
すぐに反対方向に向きを変えて歩き出してしまった…。




お大事にって……?



すると運転中の先生が、私の自宅の住所を聞いてきたので、私が道の案内役をすることに!



「それにしても鳴瀬さん、熱は大丈夫?寒気がとまらなくて、フラフラしてなかなか歩けないんだって?!霧島くんから聞いたけど……。」



え!!?



熱って!?



なんのこと!??




その時、霧島くんのある一言を思い出す!




『鳴瀬には悪ぃけど、ちょっとばかし演技してもらうぜ…?』




あ……!そうか!




あれはそういう意味で……!!




やっと理解したとき。



「どうしたの鳴瀬さん?具合悪い?」


「あ!い、いえ。なんとか、家まで頑張ります…。」


「そう。もう少しだからね?」



ふぅ~、危ない。



でも先生には嘘ついて悪いことしたな。
そこでハタと気がついた!!



私の頭に被っている物……。


霧島くんのブレザーだっ!!!



どうしよう!!


返す機会を逃しちゃったよ!!



先生に対しても悪いことをしたけど、
霧島くんに対しては、それとは比較にならないほどかなり迷惑をかけてしまった…!




でも私は車中、

霧島くんへの申し訳なさとともに、

こんな私を気遣ってくれた有難さで胸がいっぱいになるのだった……。
< 23 / 151 >

この作品をシェア

pagetop