不良リーダーの懸命なる愛
第五章

メール

その日の夜。




私はリビングで携帯と睨めっこを続けていた…。



携帯の画面に表示されている名前。


その名前はまだ見慣れてなくて、ドキドキする。



だって、この名前が携帯に登録されたのは、今日の放課後……。


つまり今から数時間前の出来事だった!







数時間前ーー



「咲希、携帯持ってる?」


「は、はい!持ってます!」


窓の掃除を終えて、掃除道具を片付けていたときに霧島くんから “番号交換しない?” との提案が!


まさかあの超人気者の霧島くんの携帯番号を知れるとは…!


すごくびっくりしたけど、本当に友達になれたんだって実感できて嬉しかった。



「俺の番号とメアド言うから、咲希から登録してくんない?」


「はい。その後私が霧島くんに番号とメールアドレスをメールで送りますね!」


「サンキュ。……咲希の携帯、スマホじゃなくてガラケーなんだな。機種だいぶ旧そうだけど、新品みたいにキレイだな……!大事に使ってるんだな。」


「そんなことないですよ?裏側はけっこう傷あります!ほら!」


と、霧島くんに見せる。


「ん?なんかここ、変な傷跡だな…?」


「あ、それは、前に一度だけ携帯を道に落としたことがあって……。それを、ちょうどお散歩中だった近所の犬が、私の携帯を口にくわえちゃって、なかなか返してもらえなかったんです。多分その時の…」



すると霧島くんは急に吹き出して、お腹に手を当てて笑いだしてしまった!!



「ブハハハ!!い、犬って!あり得ねぇーー!!咲希は犬にまで好かれんだな!?クククッ!腹いてぇ~~。」


「なっ!?わ、笑いごとじゃなくて、本当に困ったんですよ!?一時間以上も口にくわえたまま、放してもらえなくて!それにその途中で着信音が鳴りだして、電話にも出られなくて本当に困って!」




ブハハハハハ





霧島くんがまた笑いだしてしまった!!



もうっ!



人の苦労話を笑って!!



ちょっとむくれてしまった。


「悪い、悪い!そんな拗ねんなって。」


すると霧島くんは優しく目を細めて私の頭をポンポンと優しく撫でてきた!!





ドキ!





その妙に大人っぽい仕草と微笑みに、心臓が跳ねてしまう!



今日の私の心臓……



ドキドキしすぎて、寿命縮んでなければいいけど…!



そして私は、高鳴った自分の胸にそっと手をそえたのだった……。






そして現在、夜の8時過ぎ。


画面に “霧島理人” と表示されているわけで…。


そして今、私は霧島くんにメールを作成中。


内容は昨日借りたブレザーのこと。


めまぐるしい一日で、霧島くんにブレザーのことをスッカリ伝え忘れてしまっていた!



もう~!私って最低だよ!



霧島くんの私物で、しかも借りてる身なのに忘れるなんて!!


「う~!初めて送るから緊張する……!!」


連絡先を交換してからは、霧島くんから私の携帯には何の音沙汰もない。



だから余計に緊張してしまう!



ブレザーをクリーニングに出してるから、返すのに時間がかかることを伝えるだけなのに!



それにしても……。



絵文字とか…つけるべきなのかな?



デコメって…どうなのかな!?



男の子ってそういうの苦手かも?!


男子とメールした経験が全く無いので、困り果てて気づけば一時間半も作成に没頭していた。


「う~ん。こんな感じ…かな…?」


あれこれ考えて、結局最初に考えた簡潔な文になってしまった。



【件名:お疲れさまです

こんばんは。

鳴瀬咲希です。


霧島くんにお借りしてるブレザーの件でメールさせて頂きました!

ブレザーは、今クリーニングに出しているので明後日にはお返しできるかと思います。

あの時は本当に有難うございました!

今度改めてお礼を言わせて下さい!



以上、鳴瀬からでしたm(_ _)m】



だ、大丈夫だよね?


このメールで…。


要点もつかめてるし!


無駄な文章もないし!



よし!!送ろう!





……………。






…………………。





「ぎゃあぁぁ!駄目だ!緊張して送信ボタンが押せないよっ!や、やっぱり、絵文字を追加…」



すると突然!



「姉ちゃーん、おふろあいたってよ!!」



ドン!




ポチ。




「え…?あぁーーーー!!!」



送信ボタンを押してしまった!!



「涼太のバカッ!!涼太がどついたから、弾みで送信ボタン押しちゃったじゃない!」


「なっ!僕のせいにしないでよ!姉ちゃんが早くおふろ入らないのがいけないんじゃんか~。」


ムゥっと涼太はむくれている。


「ど、どうしよう!?今頃霧島くんの携帯に絵文字が無い、お粗末なメールが送られちゃったよーー!!」


「きりしま?…………もしかして姉ちゃん!!そいつが姉ちゃんに言いよってくる “ブレザーおとこ” の正体なのか!!?」



涼太が、やいのやいの言ってくるが、
私は後悔に苛まれて涼太の声は全く耳に届かなかった……。
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