赤い電車のあなたへ





「おお、おお。久しぶりだのう」


龍太郎おじいさんは3週間ぶりに来たわたしを歓迎してくれた。


『ごめんなさい。ちょっと病気してたりテストがあって』


いつものようにスケッチブックにサインペンで文字を書き、やり取りをした。


「ほうか……大変じゃったの。ならば、こうしてまた会えたのも縁じゃな」


「えん……?」


その字はどうだったかな、と思いながらスケッチブックにわたしは
“緑ですか?”
と書いてしまった。


それを見た龍太郎おじいさんは「ほほ」と愉快そうに笑う。


「そうじゃなあ、。緑も縁も変わらぬものじゃな。どちらもなくしてから大切さがわかるもの」


緑と縁。


似て非なるものだけど、龍太郎おじいさんにはどちらも感慨深いものがあったみたいで。


「緑と言えばな……別れた妻が連れて行った幼い息子は大自然が好きじゃった。動物や虫が好きでな。庭にでては土いじりして。生きていれば今は45歳くらいか……孫もおるかもしれんな」


さすがにその時の目は寂しげで、わたしの心が痛む。


こういう時はどうしていいかわからない。


自分だったらどうして欲しい? ない頭で一生懸命に考えた結果、わたしは龍太郎おじいさんにある話をせがんだ。



< 112 / 314 >

この作品をシェア

pagetop