赤い電車のあなたへ
「だから、君がE線沿いを捜すのはいいアイデアだよ。おかげでこちらの知らないことも知られたし」
龍治さんが正面切って褒めてくれ、好意に慣れないわたしは恥ずかしくて堪らない。
それに龍治さんは、どうしてわたしが彼を捜していたか、の理由をしつこく訊いてこないからホッとした。
もしかしたら何かを感づいているかもしれないけど、黙っていてくれるなら有り難い。
「祖父ちゃん、本当に龍太らしきやつは見なかったんだよな?」
龍治さんが訊ねると、龍太郎おじいさんはコクリと頷く。
「わしゃあこれでも覚えがいいでな。20年前の飯の内容や案内した人の顔もきっちり覚えてるよ」
龍太郎おじいさんがそう話す通りに、おじいさんの記憶力は抜群にいい。
わたしがとうに忘れた会話の内容や、あった出来事を詳細まで覚えてるんだもん。
そして、わたしがかつて龍ヶ縁で迷子になった事すら記憶して知ってたんだから。紹介してくれた駅員さんの言うとおり。龍太郎おじいさんは龍ヶ縁の生き字引だよ。
記憶力の悪いわたしからすれば、すこし羨ましい。