薬品と恋心

ティアは窓から離れ、読みかけていた本を手にとった。


最近ティアは自室で過ごすことが多くなった。


ときおり、部屋を出て庭におりたり廊下の窓から外を眺めたりはしているが、主に自室で時間が過ぎるのを待っていた。


伯爵令嬢として婚約するため、手が荒れたり、体にやけどやケガをしてはいけないということで、ここしばらく屋敷の手入れや家事全般をしなくてよくなったためだ。


しかし、ティアはただ時間が過ぎるのを待っているわけではなかった。


ティアはサイドテーブルの小皿に目を向けた。


そこにはティアが要望したくるみが置かれている。


殻つきのそれは指先で触れるとカラカラと音を立てて転がった。


ティアの顔にほんの少し笑みが浮かぶ。


しかし、ティアはそれをすぐに消し、もとの無表情な顔に戻す。


もはや自分がどうなっても興味がない、というような物憂げな表情をその顔にたたえるのには理由がある。



< 36 / 421 >

この作品をシェア

pagetop