AfterStory~彼女と彼の話~
「確かに預かりました。これから急いで仮印刷に入りますので、出来上がりましたらバイク便で原稿を送ります」
「この度はこちらの都合でご迷惑をおかけしました。仮印刷、お願いします」
「お願いします」

 姫川編集長が青木印刷所の人に頭を下げ、私も一緒に頭を下げた。

 青木印刷所の人たちが良い人たちで良かった…、あれから取材を終えて近くの喫茶店で姫川編集長と一緒にノートパソコンで原稿を書き上げ、タクシーで急いで青木印刷所に向かい、なんとか提出することが出来たのだ。

 これで『Focus』の発行が飛ばなくてすむし、高坂専務からも会議で突っ込まれない筈。

 青木印刷所を出ると、すっかり外は暗くなっていた。

「お疲れさん。今日はこのままあがっていい」

 姫川編集長は両腕をうんと上に伸ばして、深い溜め息を吐いた。

「分かりました。お先に失礼します」
「ん」

 青木印刷所の前で別れて腕時計で時間を確認すると、待ち合わせ時間をほんの少し過ぎていて、私は猛ダッシュで海斗さんと待ち合わせをしている駅に向かった。

 このイレギュラーな取材がなければ待ち合わせに余裕だったのにと何度も心の中で呟き、もうそろそろ駅が見えてくる。

「えっと、改札は―…、居た」

 改札付近は帰宅している人たちでごった返しているけれど、大好きな人はすぐ分かる。

 半袖のポロシャツにデニムのパンツスタイルの海斗さんに近づくと、海斗さんが私に気づいて目を細めた。

「よぉ」
「遅れてごめんなさい」
「そんなに待っていないから、大丈夫だ」

 あぁ…、普段は寡黙な人がみせる笑顔は反則だよ。

「ありがとうございます。それじゃ、行きましょ?」
「ああ」

 手を握って、歩きだす。
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