AfterStory~彼女と彼の話~
前に体調不良で早退しようとした時にも会ったよなと思いながら、女性に近づいてみた。

「総務課の星野さん?」
「はいぃ?!」

星野さんは私の言葉にビクッとして、手にしていた物を下に落としてしまった。

「ごめんなさい!」

私はしゃがんで落とした物を拾って、星野さんに渡した。

「ありがとうございます。九条さんはどうして此方に?」
「今日は、明日のバレンタインイベント用のチョコを買いに来たんです」
「私も総務課を代表して、此に買いに来たんですよ」

2人で顔を見合わせながらふふふと笑い、ふと目を九条さんの手元をみたら、赤くて細長い長方形の箱の中にネクタイがあった。

「あっ…、えっと、これは…」

星野さんの頬が徐々に赤く染まっていくのを見て、何だか可愛いなぁとクスッと笑う。

「私も四つ葉出版社用のチョコ以外にも、本命に向けたチョコを買いに来たんですよ」
「九条さんも?」
「はい、彼は漁師をしているんです」

私が星野さんに海斗さんとお付き合いしていることを正直に話したのは、星野さんの反応で彼がいるんだなって分かり、私もちゃんと話そうと思ったから。

「私も彼が社会人でスーツやジャケットだったら、ネクタイをプレゼントしますよ」
「そうですよね。こういうのを初めて贈るので、反応がどう返ってくるかどきどきしてます」

星野さんの相手を想う表情に、相手の人はすごく愛されてるなぁと感じる。

「お互い素敵なバレンタインにしましょうね」
「はい!」

星野さんは満面な笑みを浮かべて箱を抱き締めながら、レジへ向かって行った。

「私も海斗さんに喜んで貰えるように、頑張ろっと」

改めてエスカレーターに乗って雑貨フロアに向かい、様々な味のバレンタインキットを見比べてみる。

「味はほろ苦さがいいのかな」

甘過ぎは良くないし、男性向けの苦さがある味のバレンタインキットを複数掴んでレジに向かう。

 (海斗さん、喜んでくれるといいな)

チョコを受け取る時の顔を思い浮かべながら、両手には海斗さん用と四つ葉出版社用の袋で一杯になった。
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