世界一遠距離恋愛
辺りはすっかり暗くなって、目の前の噴水もライトアップが消え、水が出なくなっていた。…時計が示す時間は午後十一時。花奏からの連絡はまだない。…やっぱりもうダメなんじゃないかな?午前中には目が覚める予定だったのにまだ目を覚ましていないんじゃ…ほとんど待ってる意味なんかないじゃん。そして日付が変わったら…透くんは、死ぬ。
「…透くんっ、帰って来て…。」
まだ夜は冷え込む季節なので、寒くなって来た。冷たい風が吹く中、冷えた涙がとめどなく流れてはスカートを握り締める手の甲に落ちる。涙でボヤけて星の瞬きを見ることすらできない。泣いても泣いても泣き止む事が出来なかった。こんな暗くて寒い中一人でいるのやだな…怖いな…そう思ってた時、
「…やっと見つけたよ。絵里子。」
息を切らせて目の前に立っていたのは…お兄ちゃんだった。
「全然帰って来ないから探し回っちまったよ。…秋風、この公園好きだもんな。」
「おっ…お兄ちゃ…。」
「あーこらこら、一人の時に泣いちゃダメだろ。」
お兄ちゃんは大きな手であたしの頬を包み込む様に涙を拭ってくれた。…温かい。冷えた顔に熱が通う。
「こんな寒い中ずっとここにいたのか?」
「…うん、透くんが目覚めるまでここにいようと思ってたの。」
「…そっか。でもな、絵里子。こんな所でお前が凍死しちゃ意味ねぇだろ?…帰ろうぜ。明日も学校あるんだし、な?」
「…うん。」
お兄ちゃんの言葉に安心しきったあたしは全身から力が抜けた。お兄ちゃんはそんなあたしをおぶって歩き始めた。
「軽いなー。飯ちゃんと食ってる?」
「そんなのお兄ちゃん分かってるくせに。」
「はははっ、まぁな。どうして食っても食ってもチビのままなんだ?絵里子は。」
「…うっさい。」
「でもいいだろ、可愛いんだし。」
「…可愛くない。」
「可愛い。」
「可愛くない。」
お兄ちゃんは笑った。…あたしもついつい笑ってしまう。いつも良くありがちな光景過ぎて、今日もいつも通り何事もなかったかの様に時間が過ぎて行く。…そして家に着く頃、既に時間は十二時を回っていた。

…花奏から連絡が来ることはなかった。
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