グレープフルーツを食べなさい
「先輩、祥子さんに会ったんだ……へえ」

 握っていたカップを静かにテーブルに置くと、上村は私を見て微笑んだ。

 目が、笑っていない。上村の瞳の中に、静かな怒りの炎がちらついた気がした。

「それで、何か言われたんですか? あいつは親不孝者だから気をつけろとか?」

「違うよ。祥子さんがそんなこと言うわけないじゃない! そんなこと、ずっと祥子さんの側に居た上村が一番わかってるでしょう?」

「それじゃあ、一体何なんですか。第一、祥子さんがどうして先輩のこと知ってんの」

「それは、祥子さんがたまたま病院で私と上村が一緒にいるところを見かけたらしくって。その……私を上村の恋人だと勘違いしてて……」

 私がそう言った途端に、上村はきつく眉根を寄せた。

「……へえ、一回寝ただけで恋人気取り? 先輩も、案外つまんないね」

 吐き捨てるように言う上村に胸が痛む。決して期待をしていたわけじゃないけれど。やはり、きつい。


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