グレープフルーツを食べなさい
「えっ……」

「どうするか、考えてくれたかな?」

 ……やっぱり、本題は転職の話だった。

 最近は上村とのことがあって気が塞いで、岩井田さんからの飲みの誘いも断わってばかりいた。そうしているうちに、タイムリミットが迫ってしまったんだろう。岩井田さんにいつものような余裕がないような気がして、思わず視線を逸らした。

 たとえ何度訊かれても、答えは決まっている。容態の安定しない母を抱えての転職は、私にはどうしても不安だった。

「岩井田さん、せっかく声をかけてくださったのにごめんなさい。やっぱり私……」

「どうしてもダメなの?」

 私が言い終わらないうちに、岩井田さんはもう一度念を押す。

「はい。母のことがある以上、やはりここを辞めるわけには……」

「三谷さん、僕は……」

「……い、岩井田さん?」


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