グレープフルーツを食べなさい
「あれ私、上村に会計頼まなかったっけ?」

 私が聞くと、上村はやんわりと微笑んだ。

「俺が待ってるよう頼んだんです。先輩、良かったらこの後、飲みに行きませんか?」

「えっ、今から?」

 タクシーの中でちょっと険悪なムードになったから、まさか誘われるなんて思わなかった。

「お酒でだって、嫌なこと忘れられるんですよ」

「……上村?」

 いつもの私なら、そんな誘い絶対に乗らない。それなのに、何故か私は頷いていた。

「行きましょう」

「……うん」

 私は上村に促されるまま、待たせてあったタクシーに再び乗り込んだ。


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