グレープフルーツを食べなさい
「どうして?」

「最近仕事がハードでろくなモン食ってないんですよ」

「それはお生憎さま。今日は私、居残り確定なの」

「え、何で? 先輩、今週ずっと遅くない?」

「部長の商談が大詰めでしょ。手伝いたくて」

「ああ、あのチャイニーズレストランの?」

 その時、エレベーターが上昇を止め、狭い箱の中に「ポン!」と到着を知らせる音が響いた。

「それなら俺も手伝うから、さっさと終わらせて帰りましょうね。それじゃあ、お先に」

 断わる間もなく、上村はそそくさとエレベーターから降りてしまった。

「もう! いっつも勝手なんだから」

 最近はいつもこうだ。上村はああやってうまいこと言ってご飯をたかりに来る。鍵を返せと私が詰め寄っても、のらりくらりとかわされる。

 上村に振り回されるなんて本当は嫌なんだけど、でも何故か、断わりきれない自分もいる。

「まあいいか。冷蔵庫の掃除だと思えば」

 一人ぶつぶつと呟きながらまだ人気のない静かな廊下を歩く。

 外食部の入り口に着く頃には、頭の中で冷蔵庫の中身の確認を終え、今夜のメニューを考えはじめていた。


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