忘れた
「勇介…」


あたしは勇介のそばの、さっきまで洋子さんが座っていた椅子に腰掛けた。


「なに、姉ちゃん」


そう呼ばれると、なんだか気分が悪い。


「あたしの名前は東 奈緒。あなたのお姉さんじゃない」


勇介は、ポカンと口を開けた。


「姉ちゃんじゃない? え?」


勇介はあたしの顔を食い入るように見つめた。


「あーッ! 確かに姉ちゃんじゃねえわ。ごめんな、奈緒。

そうだな、よく見たら制服着てるし」


勇介がハハハ、と笑った。


いきなり呼び捨てするところ、変わってない。


「で、奈緒は、俺とどっかで会ったっけ?」


分かってはいたけれど、胸をえぐられたような衝撃だった。


「あたしのこと、覚えてない?」


震える声で尋ねる。


すると勇介は、申し訳なさそうに言った。


「あー、ごめんな。俺、事故ったこともよく覚えてなくて。

俺たちって、どういう関係なの?」

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