サヨナラなんて言わせない
『あなたの名前は南條司、私より1つ上の28歳。・・・そして私は三国涼子。それ以外は私の口からは何も言えない』


あの日、彼女が与えてくれた唯一の情報、
名前と年齢。
残念ながらその2つから思い出せることは何もなかった。

ただわかることは、彼女は間違いなく俺を知っているということ。
そしてその彼女が俺に対する壁を作っているということ。
・・・はっきり言えば完全に拒絶している。
いや、嫌われていると言った方が正解か。
これは疑いようのない事実だった。


彼女は俺に対して明確な壁を作っているが、
それでも俺のために必要なものをわざわざ準備してくれた。
そして受け入れたからには責任を持つと、
当座の生活に必要なお金まで渡してくれた。


彼女は心根の綺麗な女性なのだろう。
明らかに嫌がっている俺に対してすらここまでしてくれるのだから。
困っている人を見たら手を差し伸べてしまう、そういう優しい心の持ち主なのだ。
とっくに警察に突き出されていてもおかしくない俺を、
見捨てることなくここまでしてくれるなんて。

俺はそんな彼女の優しさに少しでも応えるために、
ここに置いてもらえる間はできることは何でもさせてもらおうと決めた。
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