サヨナラなんて言わせない
その日は突然やって来た。

いや、彼女の中では突然なんかじゃなかったのだろう。


「もう別れよう」


いつもと違って女の気配に気付いても何も言ってこない彼女に痺れを切らしたのは俺だった。どこまでも情けないそんな俺の姿を見て彼女は冷たくそう言い放った。



心臓が止まるかと思った。



奏多から散々忠告されてきた。
今のままでは取り返しのつかないことになるって。
その時に後悔しても遅いんだと。

それを無視し続けたのは他でもない俺自身だ。

覚悟をもってやってきはずだった。


だがいざ恐れていたことが現実のものとなってしまったらどうだ。

あり得ないほど動揺している俺がいる。
どこかで彼女なら俺を見捨てないと信じたかった自分がいた。


そして次の瞬間には全力で否定していた。


「嫌だ、別れない、別れたくない」


どこまで俺は卑怯な人間なんだ。
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