失 楽 園



上下しながらワインを身体の奥底に運ぶ
父さんの喉仏を見つめながら思った。


思えば父さん。
僕も貴方の排泄物から出来た存在なんだ。
それだけは感謝するよ。
僕をこの世界に作ってくれて、
姉さんと巡り合わせてくれて――…



「ありがとう」



ぐちゃ、と音をたて、
父さんと母さんは
ローストチキンが盛り付けられた皿に
顔を突っ込んだ。


「…恭、ちゃん……?」


姉さんは呆然とし、
いきなり倒れた父さんと母さんを見て、
僕を見た。

僕は微笑んで言う。

「もう少しの辛抱だよ。姉さん」



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