失 楽 園




「わたし、が、ぜんぶ、
 うばった……っ」


「いらないいらないいらない!!」



姉さんの肩を引っ掴み、
姉さんの顔を無理矢理僕の方に向かせた。





「僕には……姉さん、だけが、
 いたらいいんだよ……」





ぱた、ぱたたっ、と音をたて、
姉さんのすでに濡れた頬に雫が落ちた。

姉さんはびっくりしたように
少し目を見開き、
僕の頬にそっと手をあてる。


「泣いてるの……? 恭ちゃん……」


「姉さんだけでいい……」


「泣かないで、恭ちゃん」


「姉さん以外、何もいらない……っ」



 胸が、苦しい。

どうか謝らないで姉さん。



感覚が鈍ってしまうから。



いつの間にか僕は
姉さんに抱き締められていて、
姉さんの柔らかい胸に
顔を埋めて泣いていた。

小さい頃に戻ったみたいに、
姉さんは優しく僕の頭を撫でてくれる。

僕は姉さんにすがってしばらく泣いた。



< 98 / 187 >

この作品をシェア

pagetop