「異世界ファンタジーで15+1のお題」五
005:花冠
「あれ…?ちょっと待ってよ。
村の人は君のことを理解してくれて、とても優しくしてくれたんだよね?
じゃあ、どうして君は村を出たの?
何か理由があったの?」

「あぁ…それはね……」



またしても聞かれたくない質問をされた。
村の人は良い人達……それで終わっていたら、僕もいやなことを思い出さずに済んだのに……



「とにかくいろいろあったんだけどね…」

そう言って、話を続けようとした時…
僕は、道端に咲く白い花をみつけた。
さして美しいこともなく、どこででもみかける名も知らぬ花…
その花は、さらに僕にあの頃のことを鮮明に思い出させた。



(あの時は本当に心配したし、びっくりしたよ…)



ある日、家に戻ると母さんがいなかった。
ずっと家にひきこもってた母さんがでかけるなんて…
まさか、馬鹿なことでもしでかそうとしてるんじゃないかって、僕は気が気じゃなかった。
近所を探し回っているうちに、町のはずれの野原で僕は母さんをみつけた。
僕が母さんを呼ぶと、座りこんでる母さんが無邪気な笑顔で振り向いて……
そして、僕の方に白い花の冠を差し出したんだ。
母さんの被ってたものと同じものを。
それを見て僕は、ついに母さんの心が完全に壊れたんだと思った。



「シンファ…これ…」

僕は母さんの傍に座って、素直に頭を下げた。
母さんは僕の頭に花冠を載せて、本当に嬉しそうな笑顔を見せた。



「シンファ…子供の頃、よくこんなことをして遊んだわね。
あなたは、男の子なのに、こんなことしても少しもいやがらなかった。
でも、まさか、こんなに大きくなった今でもあの頃と同じようにしてくれるなんて……」

「母さん……」

「花は良いわね。
あなたの身体をすり抜けない……」

母さんのその声は、たとえようもないくらい哀しい声で…僕は何も言い返せなかった。



「シンファ…母さん、明日からしばらく出掛けて来るけど、心配しないでね。
必ず戻って来るから…」

「でかけるって、母さん、どこに行くつもりなんだい?
僕も一緒に行くよ!」

「私を信じて……」



母さんはとてもはっきりとした口調でそう言って…
そして、次の朝、僕が目覚めた時には母さんはもういなかった。
どこに行ったかの手掛かりも全くないまま、母さんはそれから何ヶ月も戻って来なかった。
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