プリキス!!




野太いその声は、男の人のものだ。


振り返って─────後悔した。






『おい、そいつ何処行った?!』

『あっちの方向に行きました。』





あの時……騙した人だ!




「お前……やっぱり、さっきのやつだよな。」



顔を確認すると、その人はずんずんと私の方に向かって歩いてくる。

まるで熊のように屈強そうな彼。

私は距離を取ろうとするけれど……




ドンッ




マンションの塀に、背中があたる。





「まっ……人違いです!」


完全に逃げ場を失った私は、手をクロスさせ、バツを作って、人違いな事をアピールする。


だけど熊の男子はクッと鼻で笑って。




「いや、人違いじゃねえ。後ろ姿で分かったぞ。……そんな見事な黒髪の女なんて、そうそういねぇよ。」


なんだかよく分からないけど、褒められた。






「あんた、カナンなの?」

「えー……と、水南です。」

「名前は?」

「う……あお。アオです。」




アオは、南でのあだ名。

絶対に“カナ女”の“烏丸初伊”だって事はバレちゃだめだ。

平然な顔を装って、嘘をつく。






彼は私のその答えを聞くと、「アオか……」となにやら呟いて、ニンマリ笑った。




「俺は獅東の遊佐 佳祐。おい、アオ。気に入った。東に転校しろ。姫にしてやる。」





……WHAT?





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