世間知らずな彼女とヤキモチ焼きの元上司のお話

「……ごめん。さくらがあんまり可愛いから、こんな可愛いさくらを、どうしてそいつは手放したんだろうって思ったら、つい」

 決まり悪そうに言う彼。

「元カレ、実家に帰ったの、就職して。で、自然消滅」

「え? そんなくらいで?」

「プロポーズされたけど、私、二十歳前だよ? OK出来るわけないじゃん」

 ウソは嫌いだし、まあいっかと素直に話してしまう。この後で、なんでなんでとしつこく聞かれるくらいなら、今話してしまった方が良い。

「プ、プロポーズされてたんだ!!」

 彼の目が大きく見開かれた。
 言葉にしないけど、口が「プラトニックだったって言ってたじゃないか」って動いた気がする。ほっといてよ。なぜか、そういう事になったのよ。

「って言うか、なんで、今、そんな話するの、修一くん」

「いや、だから、さくらが可愛すぎて……」

 私はぷうっとほっぺたを膨らませる。

「今する話じゃないと思います、尾形課長」

「……さくらー」

 私が懐かしい呼び名で彼を呼ぶと、彼は情けない顔をして、滝本って懐かしい名字じゃなく、いつものように私の下の名を呼んだ。

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