神様の憂鬱
「他に女がいるの知ってるんでしょ? 

それなのに自分の恋愛成就を願うってことは、その女から奪おうってことでしょ? 

そんなことまでして幸せになりたいなんて、

ずいぶんとあさはかだと思うんだけど、ボクはね」

天歌は、なにも言葉を返さない。

ただ悲しそうにボクを見つめ返してきた。

「ボク、なにか間違っているかい?」

「いいえ、間違ってはいませんわ、でも――」

「でも、なんだい?」

天歌の口が、なにか言葉を紡ごうとする。

けれど、その言葉は宙に出される前に飲み込まれた。

そして変わりに現れたのは、

「主様」

という緊張した声。

「わかってる」

呟いて、その直後にはその場を後にしていた。

今のボクには、一番大切な人のコエが聴こえたから。

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