うっかり持ってきちゃいました
***

 莉子が部屋の向こうに消えてしばらくして。
 フィルは腹立たしそうに師にお茶を淹れる。

「何なんですか、あの女」

 彼の言葉に、師は黙って微笑んだ。お茶を一口。

「召喚失敗してすみません。ハズレにも程がある」

 師の無言に魔法の失敗を責められていると感じたのか、フィルは苦々しげに呟いた。

「……君の召喚術は見事だったよ。だからあの子は来たんだね。“うっかり持ってきちゃっても影響無い子”」

 師匠の静かな言葉に、弟子は瞬きをした。

「どんな子だって突然居なくなったら影響はあるでしょう。家族、友人、知人」

 彼の真意を測りかねて、フィルはその端正な横顔を見つめた。

「あの子は、ひとりぼっちなんだね」

 少年はハッと目を見開いた。
 ーー居なくなっても、誰にも何とも思われない子。

「気付いた?リコは一度も、“いつ帰れるのか”って聞かないんだ。普通異世界なんかに来たら、まず帰れるかどうかを気にするものじゃない?帰る場所はないのかもね」

 師はただ穏やかに。弟子が見えていない部分を暴き出して諭す。
 フィルは俯いた。彼女の環境など知らない。聞いていない。
 取るに足らないなどと、どうして思ったのか。

「君が望んだものは?召喚したのはなあに?」

 お師匠様は金色の髪を弄びながら聞いてきた。そんな姿も綺麗で嫌になる。


「うっかり持ってきちゃっても影響なさそうなーー俺を必要としてくれる運命の人」


 あれが、そうなのか。
 騒がしくて喧しくて、うっかり可愛いとか思っちゃいそうな、にこにこな笑顔をあちこちに振りまく妄想少女ーー。

「どうしたらいいですかね、お師匠様」
「結婚すれば」



 それから、魔法使いとその弟子の家には、可愛くて妙な娘が住んでいる。
 うっかり持ってきちゃった、異世界から来た少女がーー。
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