夢のような恋だった



 智くんとヨリが戻せて一安心。……と言うのは私達二人の間だけの話で、実際の生活には問題が山積みだ。

本屋での立場の悪化。私にとってはそれが何より大変だ。


「中牧さん。注文品の発注なんですけど……」

「あ、俺今忙しいから他の人に聞いて」


あからさまに私を避ける中牧さんに、仕事のやりづらさは半端ない。

自然に溢れてしまうため息に周りの人も眉を寄せる。
皆、前は凄く友好的だったのに、一度嫌われるとこんな風になっちゃうのかなぁ。

本屋はバイトだ。
作家の仕事だったら絶対に辞めたくないけど、本屋ならばまた別なところを探せないこともない。

しばらく頑張って、ダメならやめて新しいお店を探そう。
そう思ったら、踏ん切りがついた。

とにかく大事なことはお客様に迷惑をかけないことだ。


「すみません、青木さん」


他の正社員さんに声をかける。
あからさまに私に嫌な態度を取るのは中牧さんだけだ。他の人は話しかければ戸惑いながらも話してはくれる。

わからないところを教えてもらって、レジに戻って店内を眺める。
最近気持ちが落ち込んでいたから俯きがちだったけれど、今日は智くんのお陰で周りを見る元気がある。

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