夢のような恋だった

自然に唇を噛んでしまっていたらしい。
口の中に血の味が広がって、私は我に返った。


「……さて、仕事しなきゃ」


パソコンの電源をいれ、未完成のイラストボートを取り出した。

私の職業は絵本作家……と言っても専業でできるほどの売れっ子なわけではない。

昼間は本屋のアルバイトもしている。
私はPOPを書くのが好きなので、割と重宝されているのかも。
仕事が入った時は融通を利かせてもらえるのでとても有り難い職場だ。


 今やっているのは、今度出す絵本のラストページ。

子供が読んで最後に笑顔になれるものを、と言われて描いたのは、純真なお姫様が他人からは魔物に見えるという呪いをかけられた王子様の真実の姿を見つけ出すというストーリーだ。

 呪いが解けた王子とお姫様が再会し、手を取り合うというラストシーン。

パソコン上で原稿を表示し、読み返しつつイラストのイメージを思い起こす。


「……こんな都合よくいくのは、物語の中だけだよ」


ポソリと呟いて、筆を取る。
パレットに頭に浮かんでいる色をつくるために、数種類の絵の具を出す。

だけどいくら混ぜても、思い描いた色は出来上がらない。

こんなんじゃ描きかけのイラストが進まない。

せっかく世に出せるものなんだから、自分の全てを注ぎ込みたいのに。
実際はため息ばかりついてる。

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