佐藤さんは甘くないっ!

なんともおかしな表情だった。

心の中で笑いながら、わたしは言葉を続けた。


「そのひとが上司って解ったとき、仕事を辞めたくなった。死ぬほど厳しくて短気で横暴で、本当にめちゃくちゃなひとなんだけど、誰よりも仕事に対して誠実で、真面目だった。」


彼は食い入るような視線をわたしに向けている。

気付けば彼は起き上がっていて、わたしと真っ直ぐ向き合って話を聞いていた。

顔色もだいぶ良くなっている。


「まだわたしも入社して半年でね、正直毎日へろへろ。今日だってこんな時間まで残業だったし、ていうか定時に帰れた日なんかないし。だけどね……それなりに充実してるんだよ。」

「……そんな環境なのに、なんで?」


無理もない質問だった。

現に佐藤さんの部下じゃないひとでも、もう既に辞めてしまったひともいる。

比べようなんてないけど、絶対佐藤さんより優しい上司だったと思う。

そんなひとでも辞めていくご時世なのにどうして。

……どうしてだろうと自分に問い掛けたとき、答えはひとつしかなかった。


「わたしね、その鬼畜シュガーに“よくやった”って言われたいんだ。それだけのために、毎日怒鳴られ続けてるの。」


自分で言ってておかしかった。

どんなマゾヒストだと思われるかもしれない。

だけどそれが答えだった。


「色々な考え方があるけど、簡単な仕事ほどつまらないものはないとわたしは思う。鬼畜シュガーの元で働いているとね、ずっと上だけを見ていられるの。このひとに追い付きたいって、追い抜きたいって、ただそれだけで、頑張っていけるの。」
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