佐藤さんは甘くないっ!

「っ、ななな……!!!」


火が点いたように、一瞬で耳まで熱くなる。

すぐに三神くんは離れたけど、なんだか爽やかな香りがまだ残っていた。

その匂いがまたわたしの気持ちを掻き乱す。

こんなの意識するなと言う方が無理だ。

わたしはこの場から逃げ出したいのと熱を冷ましたいのが相俟って、とりあえず財布を持ってオフィスを飛び出した。

三神くんの呼び止める声が聞こえたけど、構ってはいられなかった。

わざと違う階の自販機コーナーまで降りていき、誰もいない休憩スペースに腰を下ろした。

咽喉が渇いているわけでもないのに買ったペットボトルを額に当てる。

その仕草でまた昨日のことを思い出してしまい、負のスパイラルに陥ってしまった。


「……三神くんのばーか」


誰もいないのをいいことに、思わず心の声が漏れ出した。

オフィスに佐藤さんがいなくて本当に良かった。

あんなところ見られていたら一発で何かあったんだと勘付かれてしまう…。

い、いや…何か……あった、わけでは、ないんだけど。


“だから僕、めちゃくちゃ頑張ったんですよ。柴先輩に会うのに、2年もかかりました。”


昨日、三神くんが言ってくれたこと。

わたしに会うためといっても、それは職業的な憧れの意味だと解っていた。

だからそんな風に言ってもらえたのは単純に嬉しくて、……嬉しかったのに。


“でも、まさか鬼畜シュガーに先を越されているとは思いませんでしたよ。最悪です。”


…………それは、どういう意味?

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