佐藤さんは甘くないっ!

同期入社で初めて馨と会ったとき「なんだこいつ」と思った。

無愛想で仕事以外に興味ありませんって感じ。

僕とは合わないなーって思った。

別に仕事は嫌いじゃないけど、それが全てじゃないし。

好きなことをするために、生活をするために、仕方なく頑張るわけだし。

働かなくてお金がもらえるなら絶対その方が良い。


……でも、馨はきっとそれでも働くんだろうね。

柴ちゃんがいる限りは。


「柴ぁぁぁぁああ!!!誰がココア買ってこいって言った!!!コーヒーもまともに買えねぇのか!そんな脳ミソなら捨てちまえ!!!」

「いやー押したら何故かココアがでてきたので、面白くて……ぷくくっ」

「てめぇ……コーヒーっつったらなにがなんでもコーヒー買ってこい!」

「そんなにコーヒー飲みたかったんですか?す、すみません……ぷくくっ」

「…………殺すぞ」

「っ!!!こ、コーヒー、買ってきます!!!」


こんな和やかな光景が見られるようになったのは、柴ちゃんが入社してからだ。

ずっと淡々と仕事に打ち込んでいた馨ががらっと変わったのも、そのときから。

馨が初めて柴ちゃんを見たときの表情は今でも忘れられない。

もう……あははっ……笑いが止まらないくらい…ふふっ…おかしくて。

まさに一目惚れ。

たぶん、僕以外の誰も気付いてなかったけど。

だってあの馨が直属の部下を取った時点で有り得ないし。

皆もそれについてはびっくりしてたけど。

馨は柴ちゃんが入社する一年前まで、僕とも同期の最上麗とずっとコンビを組んでいた。

黄金コンビの呼び名は伊達じゃなくて、何度も大きな企画を成功させてきた。

あのときはまだ僕も星川も同じ部署だった。

この四人でチームを動かすことが多くて、結構楽しいメンバーだった。

……でも、馨だけは、ただ使命感に燃えている感じだった。
< 282 / 291 >

この作品をシェア

pagetop