佐藤さんは甘くないっ!

翌日、月曜日。


「…………はぁ」


こんなにも会社に行きたくないと思ったのは久しぶりだった。

佐藤さんへの告白の返事を考えていた木曜日よりずっとずっと、憂鬱だ。

揺れる満員電車でさらに憂鬱が加速する。

…自分の嫌なところを見たくなくて、わたしはまた逃げようとしていた。

ああ、このまま家に引き返したい。

付き合ってまだ5日目なのにもうやめたい。

全部なかったことにしたい。


「……元気だしてよ、柴」

「うん……」

「ほ、ほら、佐藤さん忙しかったんだよ、きっと!!」

「そうだね……」


なんだろうこの敗北感。

今更確認だけど……わたしが、告白されたんだよね?

なのにどうして音沙汰がないんだろう…。

一般的に交際を始めたら1回くらいメールしたりとか……大人の男性はしない…のかな…?

まだ始めたばっかりだから?なんなの?

もしかしてわたしがおかしいの?

佐藤さんがよくわからない。

初めてメールくれたときは、内容はさておきちょっと嬉しかったのに。

…無視されるよりは絶対マシだ。


「……もしかしてわたし…遊ばれてる?」

「いや有り得ないでしょ!あの佐藤さんだよ?落ち着いて柴、あんたがふられたみたいになってる」

「気持ち的にはそんな感じだよ……」

「おはようございます。佐藤さんがどうかしたんですか?」


………?

朝から元気な女子高生の笑い声に混じって良く通る声がした。

聞き覚えのある声色に視線を持ち上げると、不思議そうな顔をした三神くんが立っていた。

げっ、と声にならない驚きが口の中で弾ける。


「……お、おはよう、三神くん」


ただでさえ憂鬱な朝が更にハイスピードで加速していく予感がした。
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