Caught by …
私は再度謝りながら頭を下げて、歩き出そうとした。しかし、腕を掴まれて振り返ると、姉によく似たその人がルージュで彩られた形の良い唇に弧を描いて言った。
「あなたも、失恋したの?」
唐突に投げ掛けられた言葉。怪訝な顔を返す私に、彼女は“あなたも”と言うほど落ち込んだ様子もなく、掴み所のない笑みを一層強めた。
「クリスマスの夜に、こうして出会ったのは何かの縁としか言いようがないわ。少し付き合ってくれない?」
私の返事を聞くより先に、その人は掴んだ腕を引っ張って歩き出していた。一応の抗議はしてみたが、全く聞く耳を持とうとしない。だから私は黙って、大人しくついていく事にした。
一度、来た道を振り返ってみる。
入れ替わり、立ち替わり、人が混ざり合って、離れていって、どこかに消えていく。
そこに、逃げる私を追いかけるものは何一つなかった。
本当は何から逃げていたのか、分からなくなってしまった。
腕を引っ張ってくれる彼女の手だけを頼りに歩く私の足はたどたどしく、危なっかしかったのか「ちゃんと前を向きなさい」と注意をされた。
前を向くと、当たり前だが彼女の背中があって、仕方ない子ね、と困ったように、そして楽しげに笑う横顔があった。
それを見た途端に、どうしようもなく会いたくなった。……“大嫌い”な姉に。
頬に流れ落ちた涙を気づかれないように拭って、私はもう一度だけ振り返る。
神様も、サンタクロースも、トナカイも、私の目には見えなかった。ただ、一瞬だけ姉が見えた気がした。
だけど私は前に向き直って、それから後ろを見るのをやめた。
「私の名前はセシーリア、あなたは?」
道路を走る車の騒音に負けない声を出す。幼い子供の自己紹介みたいだった。彼女は笑って「私の名前はジェーンよ」と言った。
「あなたも、失恋したの?」
唐突に投げ掛けられた言葉。怪訝な顔を返す私に、彼女は“あなたも”と言うほど落ち込んだ様子もなく、掴み所のない笑みを一層強めた。
「クリスマスの夜に、こうして出会ったのは何かの縁としか言いようがないわ。少し付き合ってくれない?」
私の返事を聞くより先に、その人は掴んだ腕を引っ張って歩き出していた。一応の抗議はしてみたが、全く聞く耳を持とうとしない。だから私は黙って、大人しくついていく事にした。
一度、来た道を振り返ってみる。
入れ替わり、立ち替わり、人が混ざり合って、離れていって、どこかに消えていく。
そこに、逃げる私を追いかけるものは何一つなかった。
本当は何から逃げていたのか、分からなくなってしまった。
腕を引っ張ってくれる彼女の手だけを頼りに歩く私の足はたどたどしく、危なっかしかったのか「ちゃんと前を向きなさい」と注意をされた。
前を向くと、当たり前だが彼女の背中があって、仕方ない子ね、と困ったように、そして楽しげに笑う横顔があった。
それを見た途端に、どうしようもなく会いたくなった。……“大嫌い”な姉に。
頬に流れ落ちた涙を気づかれないように拭って、私はもう一度だけ振り返る。
神様も、サンタクロースも、トナカイも、私の目には見えなかった。ただ、一瞬だけ姉が見えた気がした。
だけど私は前に向き直って、それから後ろを見るのをやめた。
「私の名前はセシーリア、あなたは?」
道路を走る車の騒音に負けない声を出す。幼い子供の自己紹介みたいだった。彼女は笑って「私の名前はジェーンよ」と言った。