Caught by …
 ジェーンに連れられて着いたのは、大通りから少し中に入った場所に建つ地味なビルだった。目立った看板はなく、入り口も狭い。

 つい不安な気持ちが顔に出ていたらしい私に、彼女は「大丈夫よ」と言うが、ビルの中に入ってみるとそこは地下道のように薄暗く、私の不安は大きくなるばかりだ。

 一体、どこに連れていかれるのか……。

 すっかり信用していた彼女が何者なのか、今頃になって疑い始める私をよそに、ジェーンは慣れたように歩きを進めてエレベーターに乗り込む。

 30階のボタンを押して扉が閉まると、ぐんぐん上へと上っていく。少しだけ耳に違和感を覚えて顔をしかめたら、ジェーンも僅かに眉を寄せていた。

「こればっかりは慣れないわね。でも、この先に良いものと出会えるから」

 とりあえずその言葉を信じて、意味があるのか分からないけれど耳を手で押さえて待つ。

 暫くして30階に着き、扉が開いた。

 エレベーターから降りると、そこはシックな雰囲気のあるバーで、落ち着いたゆったりしたジャズが静かに流れていた。

 その場にいる人は皆私なんかよりずっと大人で、なんだか場違いな気がして怖じ気づいてしまう。

「ほら来て?こっち、こっち」

 立ち尽くしていた私に手招きするジェーンは少しだけ声を潜めて、だけど無邪気に笑って足取りは軽い。

 フロアを突っ切る彼女の後を、私も駆け足で追いかけた。
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