黄昏に香る音色 2
里美は、息を飲んだ。

閉めたはずなのに…

扉が開く。



まだ明るい光が、外から入ってくる。

「ただいま…」

店に入ってきたのは…

香里奈だった。

「おばさん!いたんだあ!」

香里奈は、里美を見つけ、

「鍵閉まってるから…どこか出かけたと、思った」

里美は、安堵の息をつくと、カウンターに腰を下ろした。

「脅かさないでよ…」

香里奈は、首を傾げる。

「どおかしたの?」

里美は、ズボンの後ろポケットから、タバコを取り出すと、火をつけた。

「ちょっと…変なおっさんがいたから…」

「おっさん?」

「いや…大丈夫よ…」

里美は、つけたばかりのタバコを灰皿に置くと、

少し落ち着いたようで、席を立った。

「おかえり…コーヒー飲む?」

「うん!」

香里奈が頷くと、

里美は、カウンターに入り、コーヒーの用意を始めた。


(だけど…誰だったのかしら…)

里美は、コーヒーをいれながら、考えたけど…

(明日香の知り合い…?)

里美は首を捻り、

(あんなおじさんが…)

ファンではなさそうだった…。

(親戚の方かしら…)

いや…

明日香には、お母さんしかいなかった…。

親戚がいると、聞いたことはない…。

母子家庭だったはずだ…。

里美は、カップから、コーヒーが溢れそうになるのに気づき、慌ててポットを上げた。

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