黄昏に香る音色 2
次の日、

小さな荷物を持って、律子と和也は、久々に戻ってきた。

我が家に。

荷物を置き、カウンターに座った律子は、しばらくは……ただじっと店内を眺めていた。

和也は、そのそばで、律子を見守っていた。

どれくらい時がたっただろうか…。

じっと座って、動かない律子の目に涙が流れた。

「母さん…」

「ここは…変わってないのね。まるで、時が止まってるみたい」

律子は立ち上がり、カウンターの中を見た。

「綺麗にしてある…」

「直樹が、いつも掃除してくれていたみたいだ」

「そう」

律子は微笑み、店内を歩き出した。

「ちっとも変わってない…」

「ああ。変わってないよ」

「お父さんが、待っててくれたのかしら…」

「ああ…待ってたんだよ」

「和也」

律子は、和也を見た。

「お母さん…やってみようかしら」

律子は微笑み、

「お店を」

「そうだよ。やった方がいい」

和也は、頷いた。

「もう何年もやってないから…ちょっと準備に、時間がかるかも」

「手伝うよ」

和也は嬉しかった。

母の笑顔を見るのは、何年ぶりだろう。

この笑顔があれば、何でもできる気がした。



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