黄昏に香る音色 2
チケットを、入り口で渡すと、

香里奈は、だだっ広い会場に飛び込んだ。

興奮状態の観客をかき分け、

香里奈は、明日香のいるBステージまで急ぐ。

観客のほとんどは、啓介がでるAステージに、注目していて、

bステージは比較的、空いていた。

何とかステージ近くまで、近づいた時、

明日香が、ステージに上がる姿が見えた。

「ママ…」

香里奈は、明日香を見上げながら、

ステージと観客を遮っているロープを伝い、スタッフ通路へと近づく。

ステージを守るガードマンを尻目に、向こうへ渡る隙を探すが…

ない。

香里奈は仕方なく、

堂々と、ロープをくぐることを決めた。

ステージの脇まで来ると、香里奈はロープの下に、潜り込む。


すぐに、ガードマンが止めにくる。

香里奈は逃げずに、逆に…ガードマンの腕をつかんだ。

驚くガードマンに、

香里奈は、耳元で囁いた。
演奏が、始まっていないとはいえ、周りの雑音は、凄まじい。

「あたしを…母の所まで連れていって」

ガードマンは訝しげな表情をしたが、

「あたしは、速水明日香の娘です」

香里奈は、強い意志の瞳を向けた。



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