黄昏に香る音色 2
それは、昔…

和美の残した遺作に、

明日香が手を加え、完成させた曲だった。

静かなバラード。

爆音の中。

香里奈は一人、

バラードを歌う。

やさしく、丁寧に。


「そうだ…」

サミーは、涙を流していた。

「これなんだよ!明日香」

何も、大きな音に対抗するのに、

同じく大きな音で、対抗することはない。

人の耳は、爆音の中でも、大切な音を聞き分ける。

そして、

他の音を、遮断することができる。

美しく、心地よく、

やさしく…語りかけてくる音ならば。

啓介たちの音は凄いが、

語りかけてはいない。

「畜生…俺は言葉はわからないけど…お前らはわかるんだろ…」

サミーは、涙を拭った。

観客の狂ったような騒ぎ方が、少し治まってくる。

そして、

何とも言えないざわめきに変わり、次第に…静かになっていく。

「歌だ…素晴らしい歌だ…」

サミーは、もう拭うことをやめた。

涙はどうせ、

止まらないから…。

今、

香里奈は歌手として、

目覚めようとしていた。

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