黄昏に香る音色 2
鏡の中にも、

自由がないわ。

里緒菜は自分に笑いかけ、

「今日も人形みたいに、素敵よ」

皮肉ぽくつぶやくと、部屋を出た。

執事が、ドアのそばに控えている。

「お客様がお待ちです」

里緒菜は、執事を見ずに訊いた。

「父は?」

「もうお席の方に」

執事は、頭を下げた。

「急ぎます」

里緒菜は、真っ直ぐにのびた廊下を、早足で歩き出す。

その廊下を歩く途中で、険しい顔から、

作り笑いへと変えていく。

ドアを開けるときには、満面の笑みに。

「お待たせしました」

その笑顔は、薔薇のように美しいが、

もちろん、棘はある。

ただし、その棘は…

里緒菜自身を傷つけていた。
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