黄昏に香る音色 2
「里緒菜さん。あなたを呼んだのは、ほかでもないの…」

ディスクに座る母親。

一日中、売り上げや仕入れ額や人件費の計算に追われている。

それは、まるで病気だった。

「あなたにも、そろそろ現場を見てもらいたの」

渡された現場は、紙切れ数枚。

ただ売り上げが、書いた紙だけだ。

数字で、わかることもあるが、

わからないこともある。

過去と昨日だけを比べ、
未来を見れない経営者。

里緒菜は、書類を受け取ると、部屋を出た。

飲食業…それもファスト・フードなのだから、味や値段。

店の雰囲気など見に行くべきだ。

里緒菜はそう思いながら、廊下を歩いていた。

父親は、飲食業から離れ、他の事業に進出しょうとしていた。

付き合い等で、最近は家を留守になることが多かった。

廊下で立ちすくみ、ふっと窓の外を見た。

遠くで、電車が見えた。

人々の明かり。

里緒菜にはまるで…遠い町の明かりに感じられた。

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