黄昏に香る音色 2
「あんただって…ファンを裏切ったじゃない!」

明日香は振り返り、里美の背中に叫んだ。

里美は扉に、手をかけたまま、

止まった。

「そうよ」

そして、振り返り、

「だから…もう二度と人前で、演奏しないわ」

里美の目を見て、

明日香は言葉を止めた。

強い言葉とは裏腹に、里美の目の奥は、悲しげだった。

「明日香…。あんたはヒット曲や、流行に生きる歌手ではないのよ」

里美は扉を開けた。

「あんたは…世界中に言葉を伝える…言葉をこえる歌を歌える人なのよ」

「里美…」

「それは…香里奈。あなたもね」

里美は、香里奈に微笑んだ。

「じゃあね。世話になったわ」

里美は出ていった。

香里奈は明日香を見た。

明日香は床を見つめ…動かない。

香里奈は、拳を握りしめると、

「おばさん!」

香里奈は追いかけた。

扉を開け、外に出ると、

里美が坂を下っていた。

「里美おばさん!」

香里奈が、走ろうとした瞬間、

一台の青い車が現れ、

里美はそれに乗り込んだ。

「おばさーん!」

香里奈が叫んでも、

車は止まることなく、

すぐに発車した。

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