黄昏に香る音色 2
小さな男の子が、ステージで歌っていた。

何かヒーロー番組の主題歌だ。

武田が、最後をしめるフレーズを叩いた。

拍手がわき起こる。

ペコッと頭を下げると、男の子はステージを降りる。

小さいうちから、音楽を気楽に、楽しんでほしい。

そう考えていた明日香と里美は、触れ合える音楽を、カラオケでなく、生バンドで、経験させたかった。

近所の子供たちを集め、無償で教えていた。

直樹は、ステージ前に並べられたパイプ椅子の一番端に、行儀よくに座り、

同年代の子供たちの歌を聴いていた。

両親を亡くしたばかりの直樹を、元気させる為に、祖母が連れてきたのだ。

だけど…。

歌い終わった男の子を、やさしく迎える家族。

幸せそうな笑顔は、

遠いものを感じさせた。

次の女の子が、ステージに上がり、アイドルのヒット曲を歌う。

「あんまり、カラオケと変わらないじゃない」

オレンジジュースを片手に、直樹の近くに立っている少女が、少し不満げに呟いた。

「そう言わないの。志乃ちゃん」

明日香が、志乃のそばに来た。

「志乃ちゃんも、歌うんでしょ」

「いやよ」

志乃は、そっぽを向いた。

「みんなに、お手本を見せてあげてよ」

「いや」

志乃は舌を出した。
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