黄昏に香る音色 2
回り始めた歯車
広い店内で、営業の為の、仕込みをしていた里美は、いきなり、

扉を叩く音に、驚いた。

まだ4時だから、お客が来るはずがない。

恐る恐る扉に、近づき、

「はい…どちらさまで…」

用心深く、少しだけ、扉を開けると、

そこには、初老の男が立っていた。

きちんとしたスーツ姿で。

老人は、微笑みながら、

「こちらに、香月明日香さんは、ご在宅かな?」

(香月…)

里美は、眉をひそめた。

それは、明日香の旧姓だった。

余程の知り合いでないと、香月と呼ぶものはいない…。

里美は、訝しげに老人を見、

「生憎、留守にしておりますが…」

その言葉に、老人はさらに微笑み、

「まだアメリカから、戻っていませんか…」

(アメリカ!?)

里美は、心の中で驚いた。

「もう帰ってきてると、思ったのですが…いやはや…早すぎましたな…」

里美は、まじまじと老人を観察した。

老人も、里美を見る。

里美は、老人の瞳の奥に、鋭いものを感じた。

それでも、老人から笑みは消えない。

「それでしたら…」

しかし、老人の瞳の奥の鋭さは、増していく。

「香月香里奈さんは、いらっしゃらないかな?」








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