天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「ねえ…お母さん」

手を引かれ、険しい山道を走る男の子は、足をもつれさせながらも、一生懸命に走っていた。

「少し辛抱して下さい。やつらの気を感じぬところまで、いかなければ」

男の手を引く女は、着ている着物はボロボロで、汚れもひどかった。

それは、自然とボロボロになったのではなく、

長年の戦いを得て、傷ついたものだった。


「この山を越えれば…あなたの叔母様がいます。人類最強の戦士が……!!」

女ははっとして、前を睨むと男の子を抱き締めた。



「ケケケ…」

山道を形作る左右の林が、切り刻まれ、次々に倒れると行く手を塞いだ。


そして、その無数の倒れた木々の上に、五匹の翼持つ魔物が降り立った。


「いくら貴様でも、子連れでは、我等を相手にはできない」

カラス天狗は、クククと笑った。

「おとなしく、そのガキを渡せ!」

「そうだ!渡せ!」

魔物達の要求に、女はキリッと睨み返すと、男の子を抱き締めた。


「この子は、希望!最後の希望!」

「母さま…」

男の子は恐怖の中、しっかりと女にすがりついた。


「だからこそ!今、殺さねば」

カラス天狗は、巨大な鎌を構えた。

「力に目覚める前に!」

「我が魔王が、目覚める前に!」

「渡せ!」


親子に襲い掛かるカラス天狗よりも、女は腕の中の男の子を心配した。

優しく頭を撫で、 

「少し熱くなりますけど…我慢して下さいませ」

「うん」

男の子は頷き、

「母さまの火は熱くないから、大丈夫だよ」

その言葉に、女は愛しそうに男の子を見つめると、

全身を炎で包んだ。

そして、襲いくるカラス天狗達の鎌を避けながら、次々に回し蹴りをたたき込んだ。

まるで舞のような動きで、攻撃を終えると、女は炎を解いた。


「馬鹿な…ありえん!」

カラス天狗達の全身の穴から、炎が吹き出し、

次々に倒れた。



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