天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
ジャステンは、流した涙を恥じた。

涙を流している暇もないし、涙を流す弱さも悲しみというものを噛み締めている余裕もあってはならない。

ジャスティンは、そばで倒れているカレンに視線を落とし、呟くように言った。

「君は…最後の砦。人類の」

気を失っている為、聞こえているはずがないが、ジャスティンはだからこそ、本音を話した。

「私は、近い内に死ぬ」

片膝を地面につけると、身を屈め、カレンの手から、ピュアハートを取り上げると、刃を空に向けた。

「アルテミアと赤星君が、魔王のもとへ向かう!私もそこに行かなければならない。そして、彼らの為に…この命を捧げなければならない」

そう言うと、ジャスティンはフッと笑った。

「一度…なくした命だ」

ジャスティンは笑いながら、ピュアハートを自分の脇腹に突き刺した。

「くっ」

ジャスティンは思わず、顔をしかめた。

剣を刺した痛みより、突き刺した切っ先から感じる肉を食う感覚が、気持ち悪かった。

数秒突き刺した後、ジャスティンはピュアハートを抜くと、ブラックカードを取りだし、血が滴る刃に当てた。

ブラックカードの表面の数字に指を走らせ、パスワードを打ち込み、剣に封印を施した。

ピュアハートは、喰った者の能力をコピーすることができる。

ジャスティンは、自分の能力をピュアハートに刻んだのだ。

血を拭うと、カレンの手にピュアハートを戻した。

しっかりとピュアハートを握らせると、ジャスティンはカレンに微笑んだ。

「君の可能性は、ティアナ・アートウッドに匹敵する。幼き時…君の能力を悟られる訳には、いかなかった。魔王にも、人間にも」

ジャスティンは、脇腹の傷口にブラックカードを当てた。

「だから…君が戦士に目覚めるまで、君の力を封印していた。その封印は…私の死によって、完全に解かれる」

ジャスティンは、目を細めた。

アルテミアとの戦いで、一度仮死状態になった為に、カレンの封印は少し解けたのだろう。

そして、カレンは自らの努力で、信じられないレベルまで強くなったのだ。


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