天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
永遠の傷を刻む
「やあ…よく来たな」

立て掛けの悪い…グレーの扉を開けると、九鬼に向けて、笑顔が向けられた。

兜又三郎…。別名マッドキャベツ。

ここは、化学準備室という名の隔離室である。

大月学園別館の一番奥にある部屋は、薄暗くじめじめしているような印象があったが、

そんなことはなかった。

さらっとした空気が、肌に心地よい。

兜いわく、

ここが、一番月の光を集め易いそうだ。

「闇に近いから、危険ではない。太陽の光は、闇を隠しているだけだ。こういう場所の方が、逆に闇を防ぐことができる」





「失礼します」

一礼して、部屋に入った九鬼に、兜は苦笑した。

「君は…変わったな」

キャベツのような髪型をした兜は、一見抜けているように見えるかもしれないが、

その眼光は鋭く…白衣で隠された肉体は傷だらけであった。

兜は、手に持っていたコーヒーカップの中身を啜ると、ポットを九鬼に示した。


「結構です。まだ学業中ですので」

真面目な九鬼の言葉に、兜はまた笑った。

「そう言うと、思ったよ」

コーヒーカップを、書類でおおわれたテーブルの隙間に置いた。

「昔の…君を知ってる者からすれば…闇から、光に変わった程の衝撃を受けるだろうな」

「あたしは…闇の中にいただけです。それは…胎児と同じ…」

少し距離を取り、兜に近づいた九鬼を、じっと兜は無言でしばし見つめた。

九鬼もそんな兜を見つめながら、兜の言葉を待つ。

内容は予想できた。

だけど、九鬼は待った。

兜は、テーブルに置いたコーヒーカップをまた手にすると、

ごくりと一口…喉を鳴らして飲んだ。

その数秒後、兜は口を開いた。

「闇の居場所を突き止めた…」

「どこです?」

間髪をいれずに、九鬼はきいた。

そんな九鬼の瞳を覗くように見つめた後、

兜はため息とともに、言葉を続けた。


「今回は…この学園ではない」
< 1,309 / 1,566 >

この作品をシェア

pagetop