天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「お爺様…。これが、世界なの?」

九鬼は初めて、部屋の外に出された。

切られた腕も、元通りになっていた。

才蔵の研究所は、人里離れた山の奥にあった。

山々の谷間にある灰色の箱。

そこから、数百メートル山を上がると、遠くの町並みが見えた。

九鬼と才蔵は、ただ朝からそこにいて、

昼となり、夕焼けを迎え、夜になるまで、同じ場所にいた。


「どう思うかね?」

才蔵は、夕陽の眩しさにも目を細めずに、見つめ続ける九鬼に話しかけた。

「綺麗だと思うかね?」

自然に覆われた山々。澄んだ空気。美しき夕暮れ。

そのすべてが、九鬼に初めての景色だった。

だからこそ、九鬼は素直な感想を述べた。

「わからない…」


その九鬼の答えに、才蔵は満足げに頷いた。

「それでいい」

才蔵は、闇へと変わる世界に目を細め、

「自然が綺麗だと思うのは、人間のエゴだ。動物が、綺麗などとは思わない。自然を忘れ、都会に住む人間の…自然を壊していく人間が、懺悔で思うだけだ」

才蔵は、九鬼の頭を撫で、

「自然はあるがままだ。もし、お前が…大きくなり、自然を綺麗だと思うならば、お前の周りの自然が破壊されているときだろう。自然がそのままあれば…誰も綺麗だとは思わない」

才蔵は、山々を見回し、

「私は、逆に怖いよ。自然に迷えば…人間なんて脆いものだ…。世界は、その場で生きる術を持たない者には、恵みを与えない。助けもしない。残酷なものだ」

幼き九鬼には、祖父の言葉は理解できなかった。

だけど、

祖父から、何とも言えない切なさを感じ取っていた。



「ほら…真弓。月が出たよ」

闇が、すべてのものを黒に変える世界で、

月だけが輝いていた。


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