天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「…」

夕陽の木漏れ日が廊下を照らす中、九鬼は背を伸ばし…無言で歩いていた。

生徒会室に行かなければならないが、

その前に探すべき人物がいた。


(理香子…)

九鬼は、探している相手の名を心の中で呟いた。


昼休みの戦いの途中、姿を見せた理香子だったが、


すぐに煙のように消えた。

屋上から去る前に探したが…見つけることはできなかった。


(彼女がもし…あの世界から来た…本人だとしたら…)

九鬼の額に、冷や汗が流れた。

(あの力を…持っているとしたら…)

九鬼の脳裏に、光輝く戦闘服を着た理香子の横顔が浮かんだ。



(それは…あり得ない)

九鬼は、唇の端をキュッと上げた。



(なぜなら…あの力は、あの世界の月によってもたらされたもの)

九鬼は、実世界で使用していた乙女ケースを思い浮かべた。

(あの力があれば…何とかなるが…)



しかし、向こうの月から貰った力を、異世界で使用することは不可能なはずだから。


(だけど…理香子ならば…)

九鬼は、前を睨んだ。


(可能かもしれない)



それはまだ…九鬼の推測に過ぎなかった。

だから、断定はできない。


月影という物語を、この世界で発表し、

デスペラードに利用されたとはいえ、

乙女ブラックの力を得て、ここ一年近く戦ってきたのは、九鬼である。


勇者赤星浩一亡き後、テレビのヒーローが実際に戦うという夢を、人々に与えてきた。

しかし…。



九鬼は黒の乙女ケースをポケットから取り出した。

今…手にある乙女ケースは、実世界のものでも、デスペラードがつくったものでもない。


(この世界の月が…つくったとはいえ…)

九鬼は乙女ケースを握りしめた。

(あまりにも似ている)

タキシードの男から最初に手渡されたものは、デスペラードが九鬼の思考を参考にしてつくったのは、間違いない。

しかし、今手にあるのは…。

九鬼が書いたテレビ番組を元にしたと思ったが、

違う。

テレビで披露していない能力も、使えるからだ。



(だとしたら…)


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