天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
床に転がるカルマの首。

見開いた目から、涙が流れた瞬間、

九鬼は頭を踏み潰した。


ぐちゃぐちゃになった脳髄が、床に飛び散った。





「す、素晴らしい!」


無表情に、床の残骸を見つめる九鬼の後ろで、

首から上を失った胴体が、音を立てて崩れ落ちた。


その様子を、歓喜の表情で見ていたタキシードの男は、狂ったように拍手をした。


「やっと!完全に復活なされた!」

タキシードの男は、血塗れになっている九鬼に近付くと、血溜まりの中で、跪いた。

「闇の女神!デスパラード様!」

そして、タキシードの男はいつのまにか拾っていた…ピンクの乙女ケースを差し出した。

「…」

九鬼は無言で、乙女ケースに手を伸ばした。

九鬼の指先が触れると、ピンクの乙女ケースは消滅した。



「残る乙女ケースも、すぐにあなた様の力になるでしょう。この力が、すべて手にいれた時…」

タキシードの男の口元が緩む。

「月は、闇を照らすことはできなくなります。その時こそは…!」

話の途中、

タキシードの男は、九鬼の変化に気付いた。

突然、ふらつきだすと、

九鬼の体が二重にぶれだした。


「な!」

タキシードの男は立ち上がった。

そして、手を差し出そうとしたが、

間に合わなかった。



九鬼は二人に分離し、体が弾かれた九鬼は闇と同化して、消えた。


「クッ!」

タキシードの男は、唇を噛み締めた。



「あああ!」

ぶれが消えると、九鬼はその場で崩れ落ちた。


両膝、両手をつき、血溜まりの中で、激しく息をする九鬼を見て、

「チッ」

舌打ちすると、タキシードの男は礼拝堂から消えた。


(まだ、早いということか)

九鬼の様子を睨みながら、タキシードの男は完全に気配を消した。






「は、は、は」

激しく全身で息をしながら、九鬼は何とか立ち上がろうとしたが、

全身に力が入らなかった。

「まだ…やれる!」

九鬼は、カルマとの戦いが終わったことに、

すぐには気付かなかった。
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