天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
最速のスピードで、九鬼は教会を目指す。

月の明かりに照らされて、乙女ブラックの戦闘服が淡く輝いた。


「アルテミア!」

九鬼は前を睨んだ。

今の自分では、勝てる相手ではない。

しかし、そんなことが…戦わない理由にはならない。

「例え!一撃でも!」

アルテミアに叩き込む。

それが、九鬼が向かう理由だ。


「とお!」

屋根や屋上をつたいながら、最短距離で来た九鬼は、教会の前に飛び降りた。

「うん?」

教会は半壊しており、戦いの凄さを物語っていた。

闇に憑依されていた人々の死骸が転がっていたが、

月の明かりを浴びると、ゆっくりと蒸発していくのがわかった。

「全員…倒したのか?」

九鬼は気を探りながら、辺りを彷徨く。

「気を感じない…」

生きている人の息吹きも、闇の波動も感じない。

それよりも、アルテミアの圧倒的な魔力を感じない。

「遅かったか」

九鬼が悔やみながら、拳を握り締めていると、

教会の方から、がさがさと音がした。

「誰だ?」

一気にジャンプして、音がした方へ降り立った。

いつでも、蹴りが放てる体勢をとりながら、近づいていく。

音は、教会の横からした。

ムーンエナジーを右足に集中すると、九鬼は教会の横に滑り込んだ。

回し蹴りを放とうとして、九鬼は途中で足を止めた。

「ううう…」

教会の横にあるゴミ置き場のそばで、踞り…目をつぶって耳を塞いでいる少女がいた。

少女の着ている制服は、大月学園のものだった。

九鬼は、分厚い牛乳瓶の蓋のような眼鏡をかけた…女生徒を知っていた。

九鬼は足を下ろすと、女生徒がこちらを見ていないのを確認すると、眼鏡を外した。

すると、変身が解け…女生徒と同じ制服姿になった。

「阿藤さん!どうして…ここに?」

踞っているのは、阿藤美亜だった。

仔猫のように震えている美亜の肩を、身を屈めた九鬼が掴んだ。
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