天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}
「うん?」

月に手をかざした後、倒れているリオのそばに行こうとした美亜は、足を止めて顔をしかめた。

「チッ」

軽く舌打ちすると、再び屋根に向けて、ジャンプした。



「阿藤さん!」

慌てて戻ってきたのは、変身を解いた九鬼だった。

少し戦いに集中し過ぎて、美亜のことを忘れていた。

戦いの場に戻ってきて、九鬼は眉を寄せた。

気を失っているリオに変化はないが、神流の体が粒子化し、消えていってるのだ。

「こいつも…闇と同じで、消滅するのか…」

魔獣因子を発動させた神流の最後を、九鬼はこう理解した。

消えていく神流の体に、手を合わすと、九鬼は乙女ブラックに変身して、屋根に向かって飛んだ。

瞬き程の速さで、美亜を抱えて着地すると、眼鏡を外し変身を解いた。


ゆっくりと歩き出す九鬼は、リオのそばで足を止めた。

リオの手元に転がる…ダイヤモンドの乙女ケースに気付いた。

しばし見つめた後、九鬼は美亜を抱えたままでしゃがみ、乙女ケースに手を伸ばした。

しかし、乙女ケースは突然、何かに引き寄せられるように、九鬼の手から逃げた。

飛んでいく乙女ケースの先を、九鬼は睨んだ。


「理香子!」

いつのまにか、教会の前に理香子がいた。


「装着」

理香子が呟くように言うと、乙女ダイヤモンドに変身した。

「理香子!」

ダイヤモンドの拳を突き出し、襲い掛かかろうとする理香子と九鬼の間に、誰かが割って入った。

「早まるな」

九鬼に背を向け、理香子の前に立ちはだかるのは…兜だった。

「まだ…満ちていない」

理香子の拳が、兜の鼻先で止まる。

「月が満ちていない」

兜と理香子の上空にある月は、まだ満月ではなかった。

「クッ」

理香子は顔をしかめると、拳を下げ、後ろに下がった。

すると、変身が解け、学生服の理香子に戻った。

理香子は無表情になると、踵を返し、兜や九鬼に背を向けて歩き出した。
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